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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)1883号 判決 1973年3月31日

原告

破産者天王寺農産株式会社破産管財人

藤原光一

被告

稲本憲二郎

ほか、別表第一の番号1ないし59

<略>

別表第一の番号1ないし55記載の各被告の訴訟代理人

和田栄重

外二名

主文

一、別表第一の番号1ないし54、56ないし59記載の各被告は、原告に対し、それぞれ別表第一の「上記被告に対する認容金額」欄記載の各金員を支払え。

二、原告の右被告らに対するその余の各請求、および別表第一の番号記載の被告に対する請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、<以下略>

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

「別表第一の番号1ないし59記載の各被告(以下1ないし59の被告という)は、原告に対し、それぞれ、別表第一の「上記被告に対する請求金額」欄記載の各金員、およびこれに対する右各被告に本件訴状が送達された日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、1ないし55の各被告

それぞれ、「原告の右被告らに対する各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。

三、56の被告

「原告の右被告に対する請求を棄却する。」との判決を求める。

四、57の被告

右被告は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

五、58の被告

「原告の右被告に対する請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。

六、59の被告

右被告は、適式の呼出を受け、本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなした答弁書には、「原告の右被告に対する請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める旨の記載がある。

第二、当事者双方の主張

一、原告

(請求の原因)

(一) 訴外天王寺農産株式会社(以下破産会社という)は、昭和四一年七月一六日午前一〇時に大阪地方裁判所において破産の宣告を受け、原告は、同日その破産管財人に選任せられて、即日就任した。

(二) 破産会社は、設立以来穀物の現物取引を行つていたが、昭和三五年頃から一般顧客からの穀物清算取引の委託をも受けるようになり、現物取引と仲買人業務を兼営していたところ、昭和四一年三、四月頃から資金繰りがいよいよ逼迫し、同年五月五日期日の支払手形の決済ができなくなり、同年同月九日に大阪穀物取引所に廃業届を出して、同日一般的に支払を停止した。

(三) ところが、その翌一〇日頃から破産会社に対する右清算取引委託に基づく債権を有する被告らの委託者がさわぎだして、その債権の確保と回収に奔走し、右委託者は、債権者の代表として1、6、55の各被告、および訴外中川義夫を選出して、同人らに対し右債権の回収を委任して、これに関する一切の代理権を授与した。そこで、破産会社は、被告ら(1、6、55の各被告を除く)の代理人兼1、6の各被告本人である右債権者代表に対し、破産会社所有の別表第二の一、二、四、五、六記載の各金員を、そこに記載のとおり破産会社が各訴外人等から引渡しを受けた頃に、右委託者の破産会社に対する右各債権の弁済(ただし、各自の弁済を受けた金額は、右債権者代表が各自に分配した金額とする約定)として引渡した。そして、破産会社と右同代理人兼本人である右債権者代表は、別表第二の三の権利料を右債権者代表が訴外中野清一から直接支払いを受けて、これによつて右委託者の破産会社に対する右各債権が弁済(ただし、各自の弁済を受けた金額については右同約定による)となる旨約したので、昭和四一年七月一二日頃右債権者代表は右中野から右権利料金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の支払いを受けた。その後、昭和四一年七月一二日、右債権者代表は、被告ら(ただし、55の被告を除く)に対し、右各受領金全部の内から、別表第一の「上記被告に対する請求金額」欄記載の各金員を分配した。かくして、破産会社は、被告ら(ただし、55の被告を除く)に対し右各分配金の限度において右被告らの破産会社に対する各債権の弁済をなしたが、その際、右債権者代表および右被告らは、いずれも破産会社の前記支払停止を知つていた。

(四) 55の被告は、右各受領金の合計金額から右分配金およびその他の破産会社の債権者に右同様分配した金員を差引いた残額金四五三、七八〇円を右受領の頃破産会社の承諾なくして勝手に取得して、不当に利得し、これにより破産会社に同額の損害を与えた。

(五) 破産会社の破産手続においては、八五名の破産債権者が破産債権の届出をし、管財人である原告の認めた破産債権額は三億円以上に達つしており、破産会社が被告ら(ただし、55の被告を除く)に対しなした右(三)の弁済行為は破産法第七二条二号に該当する行為である。そこで、原告は、本訴状をもつて、破産会社が右被告らに対しなした右各弁済行為をいずれも否認し、右被告らに対し右各弁済受領によつて得た利得金の返還をそれぞれ請求した。

(六) よつて、原告は1ないし54、56ないし59の各被告に対し、それぞれ、右被告らが右(三)の各弁済受領によつて得た利得金である別表第一の「上記被告に対する請求金額」欄記載の各金員、およびこれに対する本訴状が右各被告に送達された日の翌日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、55の被告に対し右(四)の不当利得金四五三、七八〇円およびこれに対する本訴状が右被告に送達された日の翌日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払うことを求める。<以下略>

理由

一、原告と1ないし55の各被告間には請求の原因(一)の事実は争いがなく、原告とその余の被告ら間には弁論の全趣旨により同(一)の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

二、<証拠略>を総合すると、請求の原因(二)の事実があることが認められ、証人阪上花子の証言中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

三、そこで、請求の原因(三)の事実があるか否かについて検討する。

(一)  別表第二の一の金員による弁済について

<証拠>を総合すると、破産会社が昭和四一年五月九日大阪穀物取引所に廃業届を出して、その支払を一般的に停止したため、翌一〇日頃から、破産会社に対し穀物清算取引委託に基づく債権を有する被告ら(ただし55の被告を除く)の委託者がさわぎ出して、その債権の確保と回収を企図して、右委託者の代表として1、6、55の各被告、および訴外中川義夫を選出したので、同人らは右委託者から右債権の回収について委任を受けて、これに関する一切の代理権を授与され、右委託者の代理人兼本人として破産会社や大阪穀物取引所と右債権の回収につき折衝を重ねたこと、その結果、右取引所が破産会社に対し、破産会社が右取引所に別表第二の一の(一)、(二)、(四)ないし(六)、(八)ないし(一一)の各名目で積立あるいは預託してある現金、又は株券(右(一)、(二)、(八)ないし(一一)は現金、その他は株券)および右第二の(七)の現金(破産会社に対する右取引所の持分の払戻金)を、昭和四一年五月一一日から同年七月一二日までの間(右(一)、(二)については同年五月一一日、右(四)ないし(六)については同年六月一四日、右(七)については同年七月九日、右(八)ないし(一一)については同年同月一二日)に返還したところ、その頃、破産会社は、これを、右債権者代表に、右委託者の破産会社に対する債権の弁済にあてるために引渡し、右債権者代表において右引渡しを受けた現金および右株券を任意売却処分して得た現金をもつて、右委託者に右債権の弁済として分配することを一任したこと、右(一)は、取引所の規定に基づき仲買人である破産会社が穀物売買取引ごとに積立てたもので、前記委託者の保証金をもつて積立てたものでないこと、右(二)は、破産会社が受取る仲買人手数料から積立てたものであること、右(四)は、商品取引所法(昭和四二年法律第九七号は昭和四三年一月二七日から施行されているから、本件はその改正前の法規による)第三八条一項に基づき、破産会社が右取引所に預託したものであつて、これは委託者の委託保証金又はこの代用証券をもつてあてるものでないこと、右(五)は、商品取引所法(前記改正前のもの)第四七条一項に基づき、破産会社が右取引所に預託したもので、委託者の保証金又はその代用証券をもつてあてるべき性質のものでないこと、右(六)、(九)は、商品取引所法(前記改正前のもの)第七九条一項に基づき、破産会社が右取引所に預託したもので、これは前記委託者が破産会社に預託した委託証拠金の現金又はその代用証券をもつてあてることがあること、右(八)は、破産会社が右取引所の会員になるため右取引所に出資した金員であること、右(一〇)は破産会社が委託者に対する将来の損害賠償金の引当のため預託してあるもの、右(一一)は、取引所に対する違約金の引当のため預託したものであること、その後ただちに右債権者代表は、右引渡しを受けた株券をその頃売却処分して、これによつて得た現金および右交付を受けた現金をもつて、昭和四一年七月一二日1ないし54、56ないし69の各被告に対し右被告らが破産会社に対し有する各債権の弁済として分配したこと(ただし、右各分配受領金額、その中に、別表第二の一の(一)、(二)、(四)ないし(一一)の各現金、もしくは株券分がいくら入つているか、又右分配による弁済金はいくらになるか等の詳細は後記(七)において認定する)が認められ、右認定事実によると、別表第二の一の(一)、(二)、(四)、(五)、(七)ないし(一一)は、いずれも、破産会社が右取引所に破産会社所有の現金又は株券を寄託(現金については正確には消費寄託)してあつたところ、右取引所からその返還を受けたものであり、したがつて、右返還を受けたものはいずれも破産会社の所有に関していたものと推認できる(もつとも、別表第二の(九)は、委託者が破産会社に売買証拠金として消費寄託した現金を破産会社が右取引所にさらに消費寄託したものと推認できるが、右返還を受けた際には、その返還を受けた現金は、現金が流通するものであることを考慮に入れると、委託者が右寄託した現金と同一性はないものと認められるので、右取引所から右(九)として破産会社に返還された現金は破産会社の所有であることは明らかである)ので、右被告らは、右債権者代表を介し破産会社から右のものをもつて各債権の弁済を受けた(ただし、その弁済金額については後記(七)において認定する)ものといわなければならない。55の被告本人(一、二回)は、別表第二の(四)、(五)は右被告らの委託者の所有株券であつた旨右認定に反する供述をしているが、右認定の右(四)、(五)の株券寄託の趣旨や、その時機からして、右供述部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、原告は、破産会社が右取引所から別表第二の一の(三)の返還として現金又は株券の返還を受けたのち、これ(ただし、株券については、売却処分して得た現金)も右債権者代表に被告ら(ただし、55の被告を除く)の破産会社に対する債権の弁済として引渡した旨主張しているところ、前示甲第一号証によると、破産会社が右取引所から昭和四一年六月二日右(三)の返還として現金三一〇、五三四円の返還を受けたことは認められるが、破産会社が、取引所から右株券の返還を受けたことや右現金を右債権者代表に引渡したことを認めるに足る証拠はなく、55の被告本人尋問(二回)の結果によると、却つて、右債権者代表は破産会社から右(三)の分は引渡しを受けていないことが認められる。

次に、原告は、破産会社が右取引所から別表第二の一の(六)の返還として現金四二、四七五円又は株券の返還を受け、これは破産会社の所有物である旨主張するので考えてみる。破産会社が右取引所から右(六)の返還として株券の返還を受けたことは前記認定のとおりであるが、破産会社が右取引所から右現金の返還を受けたことを認めるに足る証拠はない。そして、前記認定の事実、前示乙第三四号証、55の被告本人尋問の結果(二回)、商品取引所法(前記改正前のもの)を総合すると、右株券については、大阪穀物取引所の受託契約準則(当時制定されていたもの)に基づき、被告らの委託者が破産会社に穀物清算取引所を委託した際同法第九七条一項に基づくその委託証拠金の代用証券として提供したものを、さらに破産会社が右取引所に自己の名で、売買取引する際の売買証拠金の代用証券として提供したものであつて、破産会社は右取引所から当初委託者が破産会社に預託した同じ株券を右のとおり返還を受けたものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。ところで、55の被告本人尋問の結果(二回)によると、委託者が破産会社に右売買証拠金の代用証券として株券を提供した場合においては、株主名簿の名義変更はせず、その後も株主である委託者が右株式の配当を受けていること、又破産会社においては右提供を受けた際は、将来右提供者に同じ株券を返還することを考えて、提供者毎に区分して右株券を台帳に整理記載していたこと、右受託契約準則においても、破産会社のような商品仲買人は、右代用証券等の委託者から預託したものを委託者が債務の弁済をするまで原則として留保すべきことを定めていて、この定めに則つて顧客との取引がなされていることが認められ(右認定を覆すに足る証拠はない)、右認定事実により考察すると、委託者の破産会社に対する右委託証拠金の代用証券(株券)提供行為は、右委託取引により将来委託者が破産会社に対し負担する債務を担保するための右株式に対する根質権の設定であると解するを相当とし(最高裁判所昭和四五年三月二七日判決、同裁判所刑事判例集二四巻三号七六頁参照)、破産会社の右取引所に対する右売買証拠金の代用証券提供行為も右と同じ性質を有するものと推認でき、したがつて、これは、破産会社の右取引所に対する転質権の設定であると解される。右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると、破産会社又は右取引所が右提供株券につき右質権を実行してその所有権を取得したことは認められないので、破産会社から債権者代表が引渡しを受けた右株券(ひいてはこの売却処分により得た現金)が、破産会社の所有物であることは認められず、却つて、被告らの委託者の所有物であつたことが認められる。そうすると、右被告らは、右の分については破産会社から弁済を受けたものでない(これは、右被告らの委託者が自己の所有物を分配したにすぎない)といわなければならない。

(二)  別表第二の二の金員による弁済について

<証拠>によると、破産会社は、昭和四一年五月一三日現在訴外大阪穀物代行株式会社に対し合計三四、五八〇、〇〇〇円の手形貸付金債務を負担し、この担保として株券に質権を設定してこれを右訴外会社に提供していたところ、その後同年六月六日まで右の内合計金二五、二八八、〇〇〇円を前記債権者代表者が右訴外会社に支払つて、これに見合う右担保株券の引渡しを受けたこと、しかし、その残金九、二九二、〇〇〇円についてはその弁済期が到来しているにもかかわらず、破産会社がこれを支払わないため、同年七月一二日右訴外会社は右担保株券の質権の実行としてこれを売却処分してこれによつて得た現金をもつて右残債権の支払いに当てたが、右処分による剰余金一、五八六、九四三円が生じたことが認められ、<反訴排斥>、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、原告は、昭和四一年五月一三日破産会社が、右訴外会社から右剰余金として現金一、五八六、九四三円の返還を受け、その所有権を取得したのち、これをその頃被告ら(ただし、55の被告を除く)の代理人の前記債権者代表に右被告らの破産会社に対する債権の弁済として交付した旨主張するところ、右甲第二号証には、破産会社が訴外会社から右剰余金として右同額の現金の返還を受けた旨の記載(ただし、その返還日については、一行目に単に「同日」と記載され、それが、原告主張の右昭和四一年五月一三日を意味するのか定かでなく、むしろ、その前の一六行目に記載してある「昭和四一年七月一二日」を意味するものと解される)がある。しかし、<証拠>によると、前記取引所受託契約準則に基づき、被告らの破産会社に対する穀物取引の委託者は、破産会社に、委託清算取引の委託証拠金の代用証券として右委託者所有の株券を提供していたところ、破産会社は右株券を右訴外会社に対する右借金の担保として提供していたこと、そこで、右委託者の代理人である前記債権者代表が右訴外会社に右の事情を打明け、右株券は委託者の所有物であるから右剰余金も右債権者代表に引渡すよう交渉したところ、その際、同道して来た破産会社の専務取締役の阪上花子も、訴外会社が右債権者代表と話合いの上で右剰余金を右委託者に返還しても異存がない旨返事したので、昭和四一年七月一二日、訴外会社は、右債権者代表の申し入を承諾し、右剰余金の現金一、五八六、九四三円を右債権者代表の55の被告に引渡したこと、しかし、右訴外会社においては、形式的処理としては破産会社に右剰余金を返還したものと記帳し、右債権者代表と被産会社の領収証を徴したことが認められ、<反訴排斥>、他に右認定を覆すに足る証拠はない。ところで、右委託証拠金代用証券提供行為が根質権設定であることは前記(一)に認定のとおりであるので、破産会社は右委託者の所有株券を右訴外会社に転質していたものであることが認められるところ、右訴外会社が右転質権の実行によつて得た余剰金については、右委託者と破産会社間の取引が終了しておつて右委託者が破産会社に支払うべき被担保債務を有していない場合(これまでの認定事実によると、本件においては右当時右の場合に該当していたことが推認できる)においては、右委託者は、直接、右訴外会社に対し右剰余金を不当利得金返還請求債権としてその返還を求めることができると解されるので、右債権者代表は被告らの委託者を代理して右訴外会社から右債権の弁済を受けたものと認定でき、仮にそうでないとしても、前記折衝の結果、右訴外会社は右債権者代表の右申し入れを承諾して、右現金を右債権者代表に交付しているものである(その際、破産会社から領収証を徴したのは、右訴外会社が後日破産会社から右交付につき異議の申したてを受けないためしたにすぎないものと解される)から、右交付は、右訴外会社と右委託者間の和解、あるいは支払契約に基づく弁済であると解され、右現金の所有権は、右訴外会社から直接右債権者代表が代理している被告らの委託者に移転したものであつて、右訴外会社から破産会社に、さらに破産会社から右委託者にそれぞれ移転したものでなく、又当時、破産会社と右委託者間に、訴外会社が右債権者代表に右交付をなすことによつて破産会社が委託者に対し債務の弁済をなしたものとする旨の合意ができていたと認定することも困難である。果してそうだとすると、右甲第二号証の右記載部分は措信できず、他に破産会社の被告らに対する別表第二の二の金員による弁済行為を認定するに足る証拠はない(なお、証人阪上花子は、右訴外会社に預託してあつた右担保株券中には委託者の所有でないものもあつた旨供述しているので、それが事実であれば、右剰余金のうち右委託者の所有でない分についてはこの分に限つて破産会社の被告らの委託者に対する弁済があつたと認定できないでもないが、右供述部分は相当あいまいで、前記のとおり措信できず、仮に措信きるとしても、右株券の金額やこの分が右剰余金中にどれだけ入つていたか認定する証拠はないので、結局、右弁済は認定するに由ない)。

(三)  別表第二の三の金員による弁済について

前示甲第四号証、証人山本忠亮の証言(前記二の〔  〕内記載のとおり、右証拠調については瑕疵が治癒されている)によると、破産会社は、大阪穀物取引所の会員の商品取引員であつたが、昭和四一年五月右取引所から脱退し、その後訴外中野清一が右取引員になつたこと、ところが、昭和四一年七月一二日頃右中野が前記債権者代表にシート料(右会員取得の権利料)の名目で金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、これを同債権者代表が被告ら(ただし55の被告を除く)に分配していることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。ところで、原告は、別表第二の三記載の商慣習があつて、右中野は、当然破産会社に右権利料を支払う債務を負担しているところ、これを破産会社の承諾の下に、右債権者代表に支払つたが、その頃、破産会社と右債権者代表に支払つたが、その頃、破産会社と右債権者代表は右支払いをもつて委託者の破産会社に対する債権の弁済とすることを約していた旨主張するので、検討する。<証拠>によると、右取引所の仲買人協会は、右債権者代表が右中野から右シート料の名目で右金員を領収していることを聞知したので、後日右中野が右会員になれない場合は損失をこうむることになることを憂慮して、他に新会員になつた者から右協会のあつせんで右シート料名目の金員を出してもらつてこれを右中野に渡し右中野の損失を防止してやろうと考えて、破産会社から、右シート料の右仲買人協会あての領収書を作成してもらつて、これを右新会員に見せて同人から右金員を出さす資料にしようと計画したこと、そこで、右協会は、破産会社から右領収証の差入れを受け、これを保管していることが認められ(右認定を覆すに足る証拠はなく)、右認定事実によると、ある者が右取引所の新会員になるに際して、その脱退会員にその会員権譲受代金(シート料)の名目で金員を支払つている事例があることが推認できるところ、証人阪上花子は、右商慣習が存在する旨供述している。しかし、右新旧両会員間に右金員の授受がなされていることは、右両者の合意による契約に基づくものと推認するのが自然であるから、右授受の事実によつて、原告主張のとおり、右両者が右授受すべきことにつき何らの契約を締結しなくても、当然新会員が旧会員に右権利料なる名目の金員を支払う義務が発生するような慣行が存在すると推断することは困難であり、又、右証人阪上の右供述部分は他にこれを裏付ける証拠もないからにわかに措信できない。他に原告の右主張事実を認めるに足る証拠はなく、55の被告本人尋問の結果(一回)によると、却つて、右中野が右債権者代表に右シート料名目の金員を支払つたのは、1ないし55の被告らの(請求の原因に対する認否)(三)記載のとおりであることが認められるので、原告は右金員をもつて被告ら(ただし55の被告を除く)に対し債権の弁済をしていないといわなければならない。

(四)  別表第二の四の金員による弁済について、

<証拠>によると、昭和四一年七月一二日破産会社は別表第三の四記載の現金を前記債権者代表に被告ら(ただし55の被告を除く)の破産会社に対する債権の弁済にあてるために交付し、右債権の弁済として分配することを一任したところ、その頃右債権者代表はこれをもつて被告ら(ただし55の被告を除く)に右弁済として分配したこと(ただし、各自の受けた分配金額やその中に右四の分がいくらあるか等の詳細は、後記(七)において認定する)が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(五)  別表第二の五の金員による弁済について

<証拠>によると、破産会社が訴外かどや商店の債務者らから前記支払停止後昭和四一年七月頃までの間に破産会社の右訴外人らに対する売掛代金について支払いを受けた合計金六四二、五八〇円の現金をその頃前記債権者代表が破産会社から被告らの委託者の破産会社に対する債権の弁済にあてるために交付を受け、右債権の弁済として分配することの承認を得たことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。ところで、右甲第四号証には、破産会社が右債務者から回収した金員は、訴外大阪穀物代行株式会社からの回収分金五〇〇、〇〇〇円をふくめ、合計金一、一四二、五八〇円であり(したがつて、右認定よりも金五〇〇、〇〇〇円多い)、右合計金額を右債権者代表は、被告らの委託者に、破産会社に対する債権の弁済として分配した旨の記載がある。しかし、55の被告本人尋問の結果(一、二回)によると、右訴外大阪穀物代行株式会社からの回収金五〇〇、〇〇〇円および右分配した旨の記載部分はいずれもにわかに措信できず、他に右記載事実を認めるに足る証拠はなく、右被告本人尋問の結果(一、二回)によると、却つて、破産会社が右訴外会社に対し貸金債務の担保として訴外川西倉庫発行の小豆の倉荷証券を差入れていたので、右債権者代表が右訴外会社にその引渡しを求めたところ、右川西倉庫は右倉荷証券が実物をともなわない空の証券であることを理由に右引渡しに難色を示したので、右債権者代表が右川西倉庫と交渉した結果、右川西倉庫が解決金として金五〇〇、〇〇〇円を被告らの委託者に支払う旨の和解契約が成立し、これに基づき右川西倉庫が右債権者代表に右金員を支払つたこと、又、この金員および破産会社から右交付を受けた金員の合計金一、一四二、五八〇円については右債権者代表が種々の経費に支出して、これを被告らの委託者に分配していないことが認められる。そうすると、別表第三の五については、右債権者代表は、破産会社からその内金六四二、五八〇円の交付を受けているが、これを除く金五〇〇、〇〇〇円の交付を受けたことは認められず、又右合計金一、一四二、五八〇円が被告ら(ただし、55の被告を除く)に破産会社に対する債権の弁済として分配されたことは認められない。

(六)  別表第二の六の金員による弁済について

<証拠>によると、前記支払停止後、破産会社が、前記債権者代表に対し、右金員を、被告らの委託者の破産会社に対する債権の弁済にあてるために交付し、右各債権の弁済として分配することを一任したので、昭和四一年七月一二日右債権者代表がこれを被告ら(ただし55の被告を除く)に右債権の弁済として分配したこと(ただし、各自の受けた分配金額やその中に右六の分がいくらあるか等の詳細については後記(七)において認定する)が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(七)  分配金額の明細等について

以上(一)ないし(六)の認定事実に<証拠>を総合すると、前記債権者代表は、(1)、別表第二の一の(一)、(二)、(四)ないし(一一)に関する金員合計金一〇、一九六、四六七円(右(一)において認定の分)、(2)、右(二)に認定の訴外大阪穀物代行株式会社から交付を受けた金員金一、五八六、九四三円、(3)、右(三)に認定の訴外中野清一から交付を受けた金員金一〇、〇〇〇、〇〇〇円、(4)、別表第二の四の金員金二〇一、五〇〇円(右(四)において認定の分)、(5)、別表第二の六の金員金一五〇、〇〇〇円(右(六)において認定の分)、および(6)、右債権者代表が別途破産会社の顧客個人から交付を受けた別口株券売却差額入金一、二八六、五三二円(これは破産会社のものでない)、(7)、以上総合計金二三、四二一、四四二円をもつて、昭和四一年七月一二日被告ら(ただし、55の被告を除く)に対し、その破産会社に対する債権の弁済等(その詳細は、後述のとおり)として別表第一の「上記被告に対する請求金額」欄記載のとおり分配したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。しかし、以上の認定事実によると、右(1)のうち、別表第二の一の(一)、(二)、(四)、(五)、(七)ないし(一一)、右(4)、(5)の各金員(8)、以上合計金一〇、五〇五、四九二円は破産会社の所有物であり、その余の金員は、破産会社の所有物でなく、被告らの委託者の所有物であることは前記認定のとおりであるところ、右分配は、右前、後者の金員を合算したものからなされたこと(したがつて、どの金員が誰にいくら分配されたかその区分特定はできない)が推認できる(この認定を覆すに足る証拠はない)ので、右被告らの分配を受けた各金員中には、破産会社の所有物と右被告らの委託者所有物とが合算されていることが認められる。しかし、右前者の金員は、別表第三の1記載の計算式によつて算出された金額だけ右各分配金中に存在するものと認定するを相当とし、この見地にたつて、右被告らの各分配金中の右前者の金員を計算すると、これは別表第三の2記載のとおりとなり、この金員が、破産会社の右各被告らに対する債権の弁済となるものといわなければならない。もつとも、前示甲第四号証によると、右分配当時、被告ら(ただし55の被告を除く)中には、破産会社に対し、委託証拠金として現金のみを提供しているもの、委託証拠金として有価証券を提供しているだけの者、委託証拠金として右両者を提供しているだけの者、右のいずれかの他に未収債権又は未払債務を有していた者とがあることが認められるので、右の者は、破産会社に対し右提供有価証券の返還請求権を有するのみで金銭債権を有しないので、破産会社の右の者に対する金員による弁済はありえなく、又右の者、および右の上に未収債権又は未払債務を有していた者については、右提供現金、又は右未収債権の限度において金銭債権を有するので、右の者は右限度においてのみ破産会社から金員による弁済を受けたものと判断できないでもないが、前記(一)ないし(六)において認定の事実によると、被告らの委託者の破産会社への提供有価証券のほとんどが返還されておらず、破産会社においてすでにこれを他に売却処分等しており、しがたがつて、これに基づき右有価証券提供者もその提供有価証券のほとんどに関して破産会社に対し損害賠償、又は不当利得返還請求債権(金銭債権)を有していたものと推認できるので、右判断は当を得ないものと考える。しかして、前記一、二、三の(一)において認定の事実によると、被告ら(ただし、55の被告を除く)は右弁済を受けた当時、破産会社が一般的にその支払いを停止していたことを知つていたことが推認でき、右認定を覆すに足る証拠はない。

四、そうすると、破産会社の被告ら(ただし55の被告を除く)に対する右各弁済(その弁済金額は別表第三の2に記載のとおりである)は破産法第七二条二号に該当する行為であり〔なお、商品取引法(前記改正前のもの)第三八条五項、第四七条三項によると、右弁済を受けた時委託者は破産会社に対し、右委託に基づく債権について別表第二の一の(四)、(五)の各金員から他の債権者に優先して弁済を受ける権利を有しているが、この権利を同法によつて認められる先取特権であると解するとしても、右委託者間においては右金員について平等弁済を受くべきものであることは、明らかであるから、被告らの委託者が右金員について右権利を有することは、右金員からの弁済を右否認行為に該当すると認定することの妨げとならない〕、原告が本訴状をもつて右弁済を否認する旨の意思表示をしたことは本件記録上明らかであるから、これにより、右各弁済は否認せられたものといわなければならない。してみれば、被告ら(ただし55の被告を除く)は原告に対し、それぞれ、右弁済によつて得た利得金(別表第三の2に記載の各金員、すなわち、別表第一の「上記被告に対する認容金額」欄記載の各金員)およびこれに対する本件訴状が被告ら(ただし、55の被告を除く)に各送達された日の翌日であることが本件記録上明らかな別表第一の「上記被告に対する認容金額」欄記載の各年月日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるといわなければならない。

五、次に請求の原因(四)の事実について検討する。<以下略> (山崎末記)

別表 第一、第二、第三<略>

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